図面に書いてある以上の精度を。
ユニットで高い精度を実現する吉田精工セレクトの技術の秘訣とは。

吉田精工セレクト株式会社 産業機械部品の多品種・小ロット製造

吉田 明生

都道府県
福井県
事業内容
産業機械部品の多品種・小ロット製造
会社名
吉田精工セレクト株式会社
代表者名
吉田 明生
所在地

〒910-0804

福井市高木中央1丁目2212

電話番号
0776-57-1113
ホームページ

https://teramotoseikou.jp/

Factory Stories

吉田精工セレクトのルーツ

2005年に吉田明生が設立した吉田精工セレクト。精度にこだわった精密機械加工をおこなっており、多品種小ロットの生産を得意としている。
明生は独立するまで、父・寺本清二が創業した寺本鉄工で職人としての経験を積んだ。
「父はキサゲ加工の職人として、技術と棒1本だけで独立したんです」
精度へのこだわりは、そんな清二の気質を受け継いでいるのかもしれない。

清二は武村鉄工所に勤め、職人としての技術を身に付けて独立した。
摺動(しゅうどう)面などに対して、研磨加工では出せないよりフラットな加工をするキサゲ加工を中心に業務を請け負っていた。
当時はキサゲ加工が重宝されており、加工技術の腕を見込まれ、組立や機械加工などの業務も依頼されるようになった。そうして寺本鉄工は徐々に規模が大きくなったのだ。
7歳年上の兄は、寺本鉄工で機械設計をおこなっていた。大学を卒業後入社した明生はマシニングセンタを任された。

プロの厳しい目が技術を伸ばす

明生が入社した当時は、汎用機による手作業の機械が主流だったものの、徐々にコンピューター制御の機械を導入する会社が増えている時代だった。
寺本鉄工にはマシニングセンタを扱える従業員がいなかった。明生は機械加工のことをまったく知らない状態でマシニングセンタの講習会に行くことになったという。

「毎日眠れないような状態で……。アイデアが閃くと夜中の3時に会社に行って仕事をしたこともありました」
自分しかマシニングセンタを扱えないという状況と、先輩職人たちのプロとしての厳しい目は明生にとって大きなプレッシャーだった。

しかしそんな厳しい目に納得してもらえる製品を作るため必死に取り組んだことで、技術はメキメキ上達して約半年で完全に習得した。
そこからマシニングセンタを利用する加工依頼が増加し、マシニングセンタが寺本鉄工の主力になっていった。

独立によってさらに磨かれた技術

独立して吉田精工セレクトを設立した当初は寺本鉄工の仕事が中心だった。
「父から、お前が抜けると生産性が落ちる。うちの会社の業務は全部引き受けてくれと言われました。」
しかし、それだけではダメだと考え、明生は慣れない営業で新規取引先の開拓に取り組んだ。

飛び込み営業もおこなったが、ほとんどの会社からは相手にされなかったという。
それでもめげずに営業を続け、依頼を出してくれる会社を少しずつ増やしてきた。
「ずっと技術畑だったので、自社の技術をどうアピールすればいいのかわからなくて苦労しました」
ひとつずつ取引先を増やし、妥協しない仕事で精度の高い製品を納品することでさらに技術力が磨かれ、信頼を得ていったのだ。

吉田精工セレクトの精度

吉田精工セレクトではマシニングセンタ、旋盤加工、放電加工、研磨機を取り揃えている。それぞれの機械に専任の担当者がおり、その技術を磨いている。
「ミクロン単位で調整して、図面に書いてある以上の精度を出しています」
図面通りではなく図面以上の精度を出すのは簡単なことではない。
機械の加工だけではそこまでの精度を出せないため、最終的には職人が手作業で調整をしている。
特に得意としているのが部品単体の精度ではなく、組み合わせたときの精度を高める加工だ。

単体での精度を高めても、組み合わせたとき“しっくり”しないことがある。
組み合わせの精度を高めるため、製品ひとつひとつに対して社内でミーティングをおこなっている。
「各機械や職人の技術で、ここまではできる、ここは難しいというところがあります。それらをすり合わせることで、どう加工すれば目指す品質を出せるのか検討します」
それぞれの職人が持つ技術や経験を活かした上で、それぞれの技術を補いあって吉田精工セレクトは高い精度を生み出している。

吉田精工セレクトの精度を特に評価しているのは、現場の組立作業者だ。
組み立てるとき、ゆるすぎることも、かたすぎることもない、その精度の高さを実感できるのだ。
「実は、図面に書かれていない部分までお客様のご要望に添えるよう製品を作っているんです」
実際の機械の仕様を理解した上で、お客様が望んでいる完成形を意識することを職人に伝えている。

これを可能にしているのは、明生が寺本鉄工時代に組立作業を身近で見ていたからだ。
組立でどんな苦労があるのか、どこを注意するべきなのかなどを理解しており、完成形や動きなどまで具体的にイメージができるからこそ、図面に書かれていない点まで配慮することができる。
そうして単品の精度ではなく、ユニットで組んだときの精度を重視しているからこそ、妥協することなくお客様のご要望に応えることができている。
そして職人たちも自分たちの技術に誇りを持ち「もっと良いものを作る!」という気持ちで研鑽を積んでいる。

また精度とコスとのバランスも意識している。
「高精度は大事ですがやりすぎてしまうとただコストが上がるだけです。高い精度が必要なところとそうでないところを見極める。そのさじ加減は難しいですが、この点は意識して加工するように伝えています。
時間を掛ければいいわけではない。 高い精度とコストの両立、それが吉田精工セレクトが高く評価され選ばれる理由なのだ。

吉田精工セレクトの挑戦

吉田精工セレクトでは自社商品の開発に取り組んでいる。
「独立したときから、下請け業務だけではなく自社商品を作りたいと思っていたんです」
現在開発しているのはアルミ製の植木鉢だ。 観葉植物や多肉植物が好きだった明生が目を付けたのが植木鉢だった。
「本当に植物が好きな人たちは深い愛情を持って育てていると気付いたんです」
盆栽は植物だけでなく鉢もあわせてひとつの作品になっている。

そんな盆栽の陶器の鉢はかなり高額だ。
観葉植物も盆栽と同じように植物と鉢が一体となってすばらしい作品になるのではないかと考えた。
「うちの技術を活かしてアルミ製の鉢を作れるんじゃないかと思いました」
そうして黄金比率を取り入れた、植物を引き立てる美しい植木鉢の設計をはじめた。

しかし、二次元で設計した鉢を三次元にすると、見る角度により歪みを感じることに気付いた。
「二次元では一方向から見た形です。しかし実際の鉢は一方向からだけ見るのではありません。植物を見るために上方から鉢を見ることが多い。そうするとイメージしていた美しい形にはならないことに気づきました。」
設計図では表現しきれない美しさを、削りながら形を微調整することにより追い求めた。

加工にも独特な技術が盛り込まれている。
ローレット加工を模様として利用できるのではないかとひらめき、縁の部分にローレット加工を施した。
だがローレット加工も一筋縄ではいかなかった。 どうしても模様にうねりがでてしまうのだ。
「歯の入りと終わりは切削抵抗が強くなるため、仕上がりが均一とならないことが原因でした。」
鉢の縁をグルリと描く模様を均一に整えるため、歯の入りと終わりの送り速度を繊細に調整することで解決した。

鉢表面の光沢感にも工夫がある。
「削り方によって白いモヤが出てしまうんです。歯の角度をギリギリまで調整することでこの光沢を出しました」
こうした試行錯誤を繰り返し、細やかな技と工夫を駆使したアルミ製の植木鉢は社内外で高い評価を受けた。
今後、植物の育成に問題がおこらないか、直射日光に当てても問題ないか、アルミの経年劣化の進行具合はどうかなど、最低でも1年は観察や実験をして製品化を目指す。

このように時間をかけて自社商品開発に取り組んでいるが、メーカーとしての大成を目指しているわけではない。
「自社の技術を多くの方に知っていただくためのツールのひとつです。」
この美しい植木鉢には、設計から加工まで吉田精工セレクトの技術が詰め込まれています。」
自社商品の開発は、失敗や苦労の数だけ多くの挑戦や工夫が生まれ、職人たちの技術力の向上につながっている。

継承していかなければいけない技術

機械加工は、100回作ったら100回とも同じ品質のものができあがるわけではない。
様々な条件によって、微妙な違いがでてしまう。
それを調整するのが職人の経験と技術だ。
しかし、こうした技術は書面で残すことが難しく、現場で経験を積みながら感覚で覚えていくしかない。
そのため、継承できずに廃れていきつつある技術もあるという。

父・清二が磨いてきたキサゲ加工もそんな技術のひとつだ。
吉田精工セレクトでもキサゲ加工をおこなっているが、依頼数は減少している。
キサゲ加工は手作業でしかできない繊細な加工だ。 そのため時間も費用もかかることで依頼する会社が減っている。
そしてそれは技術を継承することができなくなっているということだ。 キサゲ加工を施した部分は故障しづらく長く高い品質を保つことができる。
だからこそ大量消費の時代に逆行した技術としてニーズが減ったと考えられる。 キサゲ加工に限らず、価格のみで判断されて精度の高さを評価されないこともある。

「組立がうまくいかないとき、図面を調べても問題なく、部品の寸法を調べても問題がないということがあります。これを調整するために現場の組立工数が増えてしまうんです」
吉田精工セレクトでは、組立まで意識した精度を出すため時間をかけて調整する。
一方で、寸法にあっていれば良いと判断して時間をかけずに価格を抑えて納品する業者もある。
こうした差は、現場の組立業務に影響を与えてしまう。
そして現場では、このようなトラブルに対応できる技術を持つ職人が減っている。

「このままでは日本が持っていた古き良き技術がすたれてしまいます」 吉田精工セレクトではより高い精度の製品づくりをめざすことで、職人たちが技術を高めながら継承している。 数字や書面では表すことのできないすばらしい技術が、正しく評価される時代になることを願っている。