高精度の深絞りで自社製品開発。
「断らない、諦めない」の姿勢で培った技術力で1/100の精度も実現。

株式会社タキオン プレス部品の製作・各種治具の設計製作

杉山恵一

都道府県
愛知県
事業内容
プレス部品の製作・各種治具の設計製作
会社名
株式会社タキオン
代表者名
杉山恵一
所在地

〒444-1165

安城市野寺町宝殿26-1

電話番号
0566-99-4368
ホームページ

https://takion.hp.gogo.jp/pc/index.html

Factory Stories

断らない姿勢で事業の幅と規模を拡大

株式会社タキオンは杉山恵一の父親が1979年に『杉山板金工業所』として創業した。

「父は自分の腕一本で事業を興したいと思っていたようです。それで試作板金の会社に勤めた後、27歳で独立しました」

創業当時は、手でできる曲げ加工や溶接などハンドワークの仕事を請けていた。 そのうち別の業務についても打診されるようになり、最初は外注に出して対応していたという。

しかし、対応スピードやコストの問題から社内で生産できるように変えていった。

「手作業で対応できないので工作機械を導入しました。依頼されたものができるようになると、さらに『こんなこともできないか?』と言われて、それらに対応していくうちにどんどん設備が新しくなって事業規模も大きくなっていったんです」

お客様から受けた相談を断らずに挑戦し続けてきた。
これが、現在得意としている複数工程で成型する複雑形状の深絞り加工の技術へとつながったのだ。

断るという選択肢はない

タキオンでは、依頼されたものを基本的に断らない。

試作屋なので、見たことのない形のものを作ることが大前提にあるんです。だから断るという選択肢はなくて、まずはやってみようというスタンスです」

もちろん、中には本当に困難な依頼のこともある。

その都度、仮説を立てて試行錯誤を繰り返してきたのだ。

杉山が印象深く覚えている加工は、ステンレスで径が約15ミリ、長さが約60ミリの筒状の試作だ。

「今ならそんなに悩まずにできるんですが、当時は絞りがあまり得意じゃなかったので本当に苦労しました」

平板の状態から10回以上の工程が必要な加工で、厳しい精度が要求されていた。

金型を作り直して何度も挑戦したが、加工終盤で割れてしまったという。 加工硬化によってステンレスがもろくなってしまうのだ。

完成に向けて全社員が一致団結して試行錯誤を繰り返し、3日間徹夜をして作業しなんとか形にすることができた。

「これ以上は遅らせられないというギリギリでなんとか成功しました。あれを超える苦しさは今のところないですね

難しい仕事も断らず、試行錯誤を積み重ねたことがノウハウとして蓄積され、タキオンの強みに変わったのだ。

スピードのタキオン

2004年に株式会社化したとき、社名を『タキオン』とした。 タキオンとは、光よりも速く動く仮想粒子だ。

お客さんは試作を評価試験して量産につなげる開発サイクルを速くしたいというご要望があります。そのため、少人数の技術屋集団でスピーディーに物事を解決していくという願いを込めて『タキオン』という社名になりました

その名の通りタキオンではスピードを意識している。 問い合わせへのレスポンスや見積り提出にもスピード感がある。

そして、試作製造のスピードを担保するために、ひとりの社員が様々な工程に対応できるようにしているという。

「当社では設計をする人は、設計だけでなく金型製作とプレスができることが前提なんです。製造でも色々な機械を使ってひとつのモノを完成させられる技術があります」

諦めない姿勢が高精度を出す技術力に

短納期を実現するスピード感だけでなく、お客様が希望する精度を実現する技術力も高い評価を受けている

「もっとも厳しい精度だと、プレスで径の誤差が1/100ミリというものがあります」

この精度を出すためには、金型の工程レイアウトやプレス機の精度、加工条件など製造に関わる複数の要素の調整が必要になる

同じ金型でもプレス機が違えば精度が出ません。プレス機が良くても、金型工程のレイアウトがおかしかったらだめです。すべての組み合わせをしっかり最適化していく必要があるんです」

この精度を出せるのは、試行錯誤を繰り返しながら蓄積したノウハウがあるからだ。

そしてノウハウを蓄積できたのは、社員全員が難しい加工でも諦めずに成功するまでやり切る根気や熱意を持っているからだ。

「無理だと諦めずにやってくれるのは本当にありがたいです。これこそが当社の絶対的な強みだと思っています」

技術を詰め込んだ『おうち燻製器 smoke-pod』

タキオンの技術力を結集した自社製品が『おうち燻製器 smoke-pod』だ。 きっかけは、コロナの影響で仕事量が減ったとき、空いた時間を使ってドアの丸ノブを足で開閉できる装置『ノータッチ・ノブ』を開発したことだ。

これは複数のメディアでも取り上げられて高い評価を受けた。

「それまでは自社技術の商品なら特殊なことをやらなければ受け入れられないと思っていました。でも、難しい技術じゃなくてもアイデア次第で喜んでくれる人がいるんだとわかったんです」

そうして自社商品開発に本格的に取り組みはじめた。 アイデアは、一緒に仕事をしているデザイナーが「燻製に興味はあるけど家でやるのは敷居が高い」と言ったことから生まれた。

燻製器は市販されているが、大きくて出し入れにも手間がかかるものが多い。 そこで、コンパクトで手軽に利用できる燻製器の開発にとりかかったのだ。

「当社の得意な絞りの技術を使って1枚板でつなぎ目のない成型にしています。ガスコンロの五徳にのるサイズで四隅のコーナーRを大きくしているので洗いやすいのが特徴です」

本体の壁部分には角度がついて斜めになっている。 この形状で角にシワが出ないよう均一に成型するためには高い技術が必要だ。

また、長時間の過熱によって側面にひずみが出たため、何度も形状を変えながら変形しない強度を生み出した。

「開発にかかった時間は半年ほどです。何度も金型から作り直して実証実験をすることを繰り返しました」

自社製品を生み出す場面でも、タキオンの諦めない文化が生かされたのである。

仲間を増やして新しい分野に挑戦

タキオンでは、自動車関連の試作が95%ほどを占めている。 この試作をメインとしながら、今後は他の分野への進出を考えているという。

「レーザー溶接だったり切削加工だったり、いろいろな固有技術を持っている会社さんと仲間になって、自社にない技術と掛け合わせて新しい価値を提供していくことが大事だと思っています」

実際に、少しずつ他社とコラボレーションする案件が出てきている。

これまで関わっていない分野に挑戦することで、新しい発見があるかもしれない。また、自社と違う技術に触れることで、新しいアイデアが浮かぶかもしれない。

そうしてさらに積み重ねられるノウハウがタキオンのモノづくりに生かされていくのだ。

「モノづくりの世界はすごく楽しいですね。苦労をしても出来上がったときには達成感があります。それをお客さんに喜んでもらえるのは、何物にも代えがたい喜びがあります」

杉山は仲間を増やすことで共に新しい分野に挑戦していき、さらに、仲間と共にモノづくりの楽しさを若い人に発信していきたいと考えている。