機械の仕組みで動く木のおもちゃ。
機械設計から木のおもちゃへ。
空想と技術がつくるのは子どもの笑顔。

SmiPle (スマイプル) 木工作品制作&販売、オーダー制作、ワークショップ、プロダクトデザインサポートなど

小田切 祐佳

都道府県
東京都
事業内容
木工作品制作&販売、オーダー制作、ワークショップ、プロダクトデザインサポートなど
会社名
SmiPle (スマイプル)
代表者名
小田切 祐佳
所在地

〒111-0031

台東区千束4-27-3Ti TREE 352

電話番号
03-5849-4737
ホームページ

https://odagiriyuka.smiple.jp/

Factory Stories

機械工学の世界から木工の世界へ

小田切祐佳は木のおもちゃ作家として木工作品の制作・販売、オーダーメイドによる木工製品の制作のほかワークショップの開催などをおこなっている。
木のおもちゃとして『SmiPle (スマイプル)』 と『aliws (アリウス)』の2ブランドを展開しており、特許や実用新案なども複数取得している。

そんな小田切の経歴は興味深い。

「大学は武蔵工業大学機械システム工学科(東京都市大学)で、卒業後は生産設備メーカーで機械設計をしていました」

機械設計に進むきっかけは父親とドラえもん

小田切が機械設計に進んだきっかけのひとつがドラえもんだったという。

「幼い頃、「ドラえもんはどうやって作るんだろう?」と考えていたんです」

機械設計の道に進んだ小田切らしいかわいいエピソードだ。
もっと現実的なきっかけをつくったのは小田切の父親だった。

父親が金型の設計をやっていたので家に大きなドラフターがあったんです。触ってはいけないものだったんですが、興味もありました」

このような幼少期を経て、機械工学の道に進み、生産設備メーカーで約7年設計者として知識と技術を高めたのである。

機械設計で感じるやりがいと成長

機械設計をしていた当時のことを振り返り、小田切は「面白かった」と語る。
大手メーカーの場合は分業制のケースが多いため、機械の一部の設計を任されることになるだろう。
一方、小田切の場合は機械装置を丸ごと設計していた。

「オーダーメイドで毎回新しいものを設計していました。世界に1台の装置の設計は大変でしたけど、やりがいも大きかったですね」

新しい機械は設計すればすべてが順調に稼働するわけではない。何度も修正を繰り返しながら納期までに仕上げていく。

常に問題解決をしていくことで技術が積みあがり、新しい考え方ができるようになります。そして次はどんなことができるだろうとワクワクしていました」

決められた納期の中で製品をつくり上げなければいけないプレッシャーは大きい。
だからこそやり遂げたときの達成感も大きかったという。

木工の世界との出会い

機械設計の道に進んだものの、小田切はそこをゴールだとは考えていなかった。

「家族は笑顔が多くて、シャイだった子ども時代にその笑顔に何度も救われてきました。だから、いつか自分が生み出すもので人を笑顔にできるようになりたいと思っていたんです」

そんな小田切の大きな転機となったのは父親の他界だった。
金型設計をしていた父親は、ラリー(モータースポーツ)のナビゲーターとしても活躍していた。
好きなことを軸にイキイキと働いていた父親との別れによって、自分自身の生き方と真剣に向き合うようになったのだ。
そんな折、昼休みに見ていたテレビで『木のまち 新木場』の特集を目にしたという。

「薄い板をデータ通りにレーザー加工でくり抜くのを見て面白そうだと思いました。そこで自分で書いた図面を持って、テレビで紹介されていた木材加工の会社に足を運んだんです」

感性を生かして笑顔をつくるモノづくり

はじめて製作した作品はペン立てだった。 ペン立ての真ん中にイルカがついており、小物入れ部分のつまみを引くと、ラック・アンド・ピニオンの仕掛けでイルカがクルリとまわる。

「このペン立てを見た木工の職人さんに「感性がすごい」と褒めてもらえたんです」

小田切はこれをきっかけに木工にのめり込んでいき、木工の勉強もはじめた。

「最初はクオリティが低かったんですが、周りの人に見せると笑顔の反応が返ってきました。それで、自分の想像力や感性が生かせているような感じがしたんです。生産設備の設計も面白かったんですが機能重視の世界です。私は遊び心があって使う人が笑顔になるようなモノづくりがしたいと思ったんです」

そうして2014年に会社を辞めて木のおもちゃ作家としての道を歩み出したのだ。

幼児向けブランド『aliws (アリウス)』

ブランド名『aliws』にも小田切の笑顔に対する想いが込められている。
文字をクルっと上下逆さまにすると『smile』になるのだ。
aliwsの代表的なおもちゃ『かちゃ』は、顔のついた輪状の木のおもちゃで知恵の輪のように遊ぶことができる。
指先を使ったり考えたりすることで子どもの発達を伸ばすことができるおもちゃだ。

「『かちゃ』は顔がついています。木のおもちゃに顔があると子ども達はそれに魂を込めてまるで友達のような親近感をもちます。そうすると感情が入り『ごっこ遊び』がはじまります。そのごっこ遊びを子どもたちの発想と知恵で広げていけるよう、『かちゃ』たちの車や船、歯車観覧車などもあるんです」

aliwsのおもちゃは『知育玩具』に分類されるだろう。
だが、単に知性を育むだけでなく、想像力や創造性、豊かな感情も育めるよう作られているのだ。

機械工学を取り入れたブランド『SmiPle (スマイプル)』

『smile』と『play』を組み合わせたブランド名『SmiPle』のおもちゃは、その名の通り動かしながら笑顔になれる。
『カム遊び』と名付けられたおもちゃは、自動車のエンジンパーツであるカムシャフトの構造を木で再現しているのだ。
木でつくられたネジで様々なパーツをつないでいくことで子どもが自分で動くおもちゃを生み出せる。

「私自身、大学で機械の勉強をしていてもイメージが湧きませんでした。仕事で装置を見てようやく意味がわかりました。装置を知ってから勉強をすると、学ぶことがすごく面白くなって吸収力も高いと思うんです」

カム遊びで動く仕組みを体感した子どもは、その理論を学んだとき、体験と理論が結びつき、大きな気づきを得ることだろう。
小田切は自身が機械設計をしていたときの気づきの喜びを子どもたちに伝えようとしているのだ。

木とメカニカルがつくるアートの世界

小田切が生み出す木のおもちゃは、小田切が幼い頃から親しんだ空想の世界と、機械設計で育てた技術があるからこそ実現できている。

「映画『風立ちぬ』の中に「設計は夢を形にしていく仕事」というセリフがありました。私は今、私が描いた空想の世界を形にしているんです」

そしてその根底には子どもたちに寄り添う存在になりたいという想いがある。
小田切の想いを表現する素材として、何よりも木が適しているのだ。

木は手をかければかけるほど表情が変化していきます。木の種類によっても、部位や木目によっても表情が違います。だからこそ私がつくりたい物を表現してくれると感じています」

表情豊かな木のぬくもりとメカニカルな構造は不思議な心地よい世界観を生み出している。
この先、小田切はこの世界観をアートとして育てていきたいという展望もあるという。

空間の中で大人も子どももワクワクできるような世界をアートとして作っていきたいと思っています」

小田切が描く空想の世界を、機械設計と木工の技術で切り取った木のおもちゃで遊んだ子どもたちが、モノづくりの世界で活躍する日がきっと来るだろう。