大型クレーンを設計から施工まで。
積み上げた基礎と現場を知る探求心による設計を次世代へ。
株式会社アーキテクト水野 クレーン、ホイストの専門設計・施工
水野正美
- 都道府県
- 愛知県
- 事業内容
- クレーン、ホイストの専門設計・施工
- 会社名
- 株式会社アーキテクト水野
- 代表者名
- 水野 正雄
- 所在地
-
〒〒498002
弥富市鯏浦町南前新田126
- 電話番号
- 0567-66-0500
Factory Stories
道路の設計からクレーン設計へ
株式会社アーキテクトで取締役を務める水野正美は大学で土木を学び、25歳ごろ設計の道に進んだ。当時おこなっていたのは道路の設計だ。
地面の高低差から盛り土や掘削を設定し道路の線形を決めていく。
その仕事は3年ほどで退職を決意した。とても忙しく、年度末には家に帰れない日もあるほどだったからだ。結婚して子どももできた正美は、家族との時間も守るために転職した。
「リーマンショック前なので時代というのもあるんでしょうけど……。景気が良かったので、転職先もすぐに決まったんですよ」
そうして勤めたのが、今も取引先のひとつになっているクレーンメーカーだった。
「道路設計の中の鉄橋とクレーンは似ているんですよ。違いはクレーンは動くというところです。その違いの部分は再勉強しました」
徹底した基礎の積み上げが力に
正美が勤めたクレーンメーカーでは大型の天井クレーンの設計・製造を主としていた。
「大きいものだと吊り上げが70トン、クレーン本体は200トンくらいになります」
大型のクレーンと小型のクレーンでは設計が全く違うという。
「大型クレーンでは通常規格の部品が使えないためギア1個から作らなければいけないケースが多いんです」
正美は大学時代の教科書を引っ張り出して材料力学を学び直すのと同時に、ゼロから機械計算を学んだ。
正美が入社した当時は昭和40年代に確立された計算基準を使用していた。背景となる資料も残っていなかったため、刷新することになったときは、実行部隊長のような形で刷新に取り組み、約5年かけてすべての計算書類・根拠資料を作り直した。
「元の計算と乖離しすぎず、今のトレンドと合わせるために試行錯誤しました。そのためには基礎の勉強がすごく必要になるんです。これがバックグラウンドとなって今も生きていると思います」
「設計の水野」から「アーキテクト水野」に
正美は体調不良をきっかけにクレーンメーカーを退職し『設計の水野』としてフリーで鋼構造物設計をはじめた。受注の約7割はクレーンの設計だ。。
大型のクレーンは基本的に同じものが存在しないという。
たとえば「5年前と同じもの」という注文があったとしても、5年間で安全ルールが変わっていたり、顧客の運用方法が変わっていたり、制御方法のトレンドが変わっていたりが考えられる。
「以前のクレーンを踏襲しながらも、新しいものを設計しなくてはいけないんです」
また、メーカーによってクレーン製造の考え方が違う。そのため、メーカーに合わせた設計が必要になる。
「自分のやり方で設計をするのではなく、メーカーのやり方に対して技術的な保証を与えることが自分の仕事だと思っています」
そんな仕事ぶりが評価され、設計だけではなく工事完了まで頼みたいという要望を聞くようになった。
しかし、施工まで請け負うためには建設業許可が必要になる。
様々な方法を検討し、父・正雄が経営する建築会社『アーキテクト水野』に合流することにしたのだ。
正美は『アーキテクト水野』で鋼構造物の設計・施工の部門の専任担当者として『設計の水野』時代の仕事を引き継ぐことになった。
これにより、発注者は設計から施工までワンストップで依頼することが可能になる。
また、設計者が窓口となるため、発注前の相談の段階から仕様を細かく打ち合わせることができ、イレギュラーにも柔軟に対応してもらえる。
「入口が設計者なので、知恵を絞るという意味ではお役に立てると思っています」
対話のコツは相手の言葉で話すこと
正美が仕事を進める上で気を付けているのは、相手が理解できる言葉で話すことだ。
「設計者はどうしても数字で判断する面があります。だけど応力がいくつだからと話してもお客様には伝わりません」
相手が理解できる表現に変え伝えるようにしている。
正美は「設計者が言うから仕方ない」と言われないようにしたいのだと語った。
たとえば製造の職人と話をするとき、職人が理解できるように伝えられれば、たとえ面倒な工程が必要な設計でも体を動かしてくれるのだという。
「自分の言葉ではなくて、相手の言葉で話すようにしています」
専門家になればなるほどこの切り替えは難しい。正美は常に相手と円滑なコミュニケーションがとれるよう意識しているのだ。
現場を知る設計とは
「現場で作業をしたことはありませんが、図面から現場を想像するのは得意かもしれません」
クレーンメーカーに入社してから2年ほど毎日昼休みになると現場を一周していたという。そして、はじめて見るものはすべて写真に収めていった。
わからないものは近くにいる職人に質問をしたり図面で調べたりした。
「現場を毎日見ていると、どんな流れで作業していくのか、どうやって作っているのか、自分たちの設計がどうなっていくのか理解できるようになります」
毎日続けていくうちに写真を撮る枚数が減っていった。それは知らないものが減っていったということだ。
「正直に言えば、僕がやっている設計は大学で習うことや本屋に売っている本ですべて勉強できるので、そんなにレベルが高いわけじゃないですよ」
しかし机上の知識と現場から汲み取った知識には大きな違いがあるのではないだろうか。
設計したものが出来上がるまでを理解するために現場に足を運び調べる探求心があったからこそ、今も現場を知る設計として顧客から信頼されているのだ。
若手設計者の育成を
「 この仕事の楽しさは、自分で考えたものが現実になることです」
正美ははっきりとそう言い切る。例えば自分が組んだプログラムが画面の中できちんと動作すれば気持ちがいいだろう。だが、クレーンのような大型の構造物が実際に動くところを見ると感動が違う。
「入社2年目くらいで自分が設計したクレーンが動いているところを見たときすごく感動したんです。この感動を味わえるのはモノを設計している僕らの特権だと思います」
しかし若い設計者になるほど、図面と実物がリンクしない人が多いという。
「自分が設計したものが思った通りに動いたという感動を味わってほしいです。その経験はすごくインパクトがあるんですよ」
そんな思いもあり、これから先は本腰を入れて若手を育成したいと考えているという。
「せっかく勉強しても設計の仕事に就かない子がいます。でもこの業界は人手が足りないので、そういう子たちにも設計の面白さを知ってもらい、活躍できるようになってほしいと思っています」
正美は5年かけて設計の基礎を徹底的に身に付けた経験がある。そしてモノづくりの感動も、図面と実物を結び付ける現場も知っている。 そんな正美だからこそ、自信を持って設計に取り組める若い人材を育成できるのではないだろうか。