塗装技術の研究を重ね比類なき技術へ。
独自の技術を生かしたブランド化によって
地域の活性化を目指す。

  • 株式会社三泰(SANTAI)

  • ギター製造開発、エレキギターリペア、塗装、松本渓声塗り製造

古畑裕也

都道府県
長野県
事業内容
ギター製造開発、エレキギターリペア、塗装、松本渓声塗り製造
会社名
株式会社三泰(SANTAI)
代表者名
古畑裕也
所在地

〒399-0702

塩尻市広丘野村村角前1880-2

電話番号
0263-53-7000
ホームページ

http://www.santai.jp/

Factory Stories

100年以上受け継がれる三泰のDNA

株式会社三泰は、エレキギター塗装、オリジナルギターの製造開発、松本渓声塗り(まつもとけいせいぬり)の製造などをおこなっている。
大正9年に古畑裕也の曾祖父・今朝雄が『古畑漆器店』を創業してから100年以上続く老舗だ。しかし、三泰には老舗らしい「伝統」や「格式」という言葉よりも、「挑戦」「革新」という言葉がよく似合う。
今朝雄は12歳のときに塩尻から松本に丁稚奉公に出たという。
「当時は車なんてないので、塩尻の山を見ながら涙していたらしいです」
時代的な背景もあるが、若くして親元を離れて技術を身に付け、漆器職人として独立した今朝雄は、まさに挑戦の人だったのだろう。
「実は、2022年に3代目の父の記憶を遡って原体験を掘り起こす機会を作ったんです。当社の歴史を紐解いていくと、いつも挑戦しているという感じでした

祖父と父の挑戦

今朝雄の後を継いだ祖父の邦雄は、松本市でエレキギターの生産が盛んになったことを機に、エレキギターの塗装へと事業転換した。
「漆器は製造販売なので、売ることが下手だと売れません。でも、売ることばかりで製品を作れなければ売ることができません。だから『売る』工程をスパッと切って業務をスリムにしたかったんだと思います」
祖父の邦雄は『木を塗る』という軸は変えず、業務内容も仕組みも大きく変えていく挑戦をしたのだ。そして、父・雅崇は、ギターを塗る技術を生かした『松本渓声塗り』を生み出した。
これは、盆や箱などの漆塗りされる製品に対してギター塗装の技術を使う画期的なものだった。信州の山で採った紅葉を入れたシリーズは特許も取得している。
漆器の多くは、黒・赤・金の色合いが多い。その中にカラフルな製品が置かれていると自然に目を引く。
「モダンな雰囲気で贈答品としてとてもよく売れたんですよ」
こうして、一度は手放した『売る』工程に、新しい製品で再び挑戦したのだ。
でも、エレキギターの生産と両立させることができずに一旦販売休止となった。

漆器とギターとの「木を塗る」技術の違い

三泰では、創業時から『木を塗る』ことを一貫しておこなってきている。ただし、漆器とギターでは、同じ塗装であっても内容は全く違うという。
「祖父が漆器からギターに変えたときはめちゃくちゃ苦労したらしいです。塗料も塗り方も道具も違うので、設備もガラッと変えなくてはいけなかったですしね」
さらに、漆器とギターでは塗りに対する考え方も違うという。ギターは塗料による保護性や、木の痩せやうねりを矯正する必要もあるため、塗料に厚みを出す必要があるのだ。
エレキギターの塗装は、音質のためにはできるだけ薄い方がいいんですよ。矛盾している感じですけど、保護性と音質のバランスを保つ塗り方がギター塗装の技術のひとつなんです」
さらに、一般的な漆器に比べて、ギターは様々なユーザーの需要に対応するため形状が複雑であることも難しさだという。

顧客の頭の中を再現する色づくり

ギターの塗装では色に関するトラブルが多い。
「例えば、白でも青みが入った白と赤みが入った黒では色合いが全然違うんです。お客様はオーダーするとき「白」とか「赤」とオーダーするんですが、お客様がイメージする「白」や「赤」と合致しないとトラブルになってしまうんです」
しかし、三泰ではそうしたトラブルがほとんど起こらないという。これは丁寧にヒアリングをおこない、お客様の頭の中のイメージを具現化していくからだ。
また、オーダーに対して起こる可能性があるトラブルは事前に伝えて別の提案をすることもあるという。
仕事に対して職人としてのプライドはあります。でも、職人気質という言葉で、自分たちがつくりたいモノを作って押し付けるのは格好悪いと思うんです」
そのために、お客様の話をしっかりときき、色へのこだわりや納期など、相手が望むものを提供するスタンスを取っているのだ。三泰がお客様から支持されるのは、職人の技術とサービス業の精神を併せ持っているからだろう。
「お客様のオーダーに対応できるのは、どんな希望にも対応できる引き出しがいっぱいあるからでもありますね」

積み重ねる塗装技術の研究

木の塗装は、鉄やプラスチックへの塗装とは異なる。それは、木によって染まり方の違いがあり、木目が見える塗装の場合、木目の影響も受けるからだ。
「エナメル系の単色であれば色の違いは出ませんが、それ以外は木目との調和や色の調整がとても重要になります」
そんな塗装の引き出しを更に増やすために、6年ほど前から塗装技術の研究に取り組んでいるという。
その研究はとても個性的だ。
例えば、沈んでいく夕日で染まる空や太陽できらめく海など、美しい瞬間の写真を撮り、それを塗装で表現する挑戦をするのだ。
こうした研究があるからこそ、お客様の頭の中にあるイメージを再現することができるのである。
「他にも、偶発的にできたものを意図的に作れるようにすることもしています。こうして技術や表現の幅を広げることで、三泰にしか作れないものが生まれるんです」

4代目の挑戦は唯一無二のブランド化

「三泰はこれまで何度もメーカーになる挑戦をしてきました。私は再び自社製品を生み出してメーカーになりたいと思っています」
4代目の裕也の挑戦は、自社のことだけを考えているわけではない。
「下請けがメーカーになって輝けたという実績があれば、他の会社でも取り入れてみようという気になるんじゃないかと思うんです」
裕也は製造業の活性化も視野に入れて挑戦をはじめたのだ。そのために、デザインを生かしたかっこいいブランドを確立し、ギター塗装の下請けだけでなく新しい製品を生み出すメーカーになろうと動きはじめている。
その上で、社内の職人たちがそれぞれの好きなことや得意なことを生かした副業契約ができる仕組みをつくりたいという。
「例えばアクセサリー作りが好きな職人は、個人事業としてアクセサリー商品の開発をして、三泰ブランドで販売して職人にインセンティブを支払うような仕組みです。職人たちは自分の思い入れがあるものにクリエイティブな要素を付加することで、楽しんで仕事ができると思います
会社としての組織の力と職人の個の力を組み合わせる斬新な仕組みを作ろうとしているのだ。
この背景には裕也の地元に対する愛情がある。塩尻の街が好きだからこそ、産業が発展して仕事を続け、住み続けられる場所にしていきたいと考えているのだ。
私たちのような小さな会社は、どうやって付加価値をつけていくかが大切です。ニッチな技術で商品開発をして会社が変わったという成功体験を地元に残したいんです」
創業から挑戦を続けてきた三泰は、挑戦をする度に土台を固めて強くなってきた。地域も巻き込む4代目の挑戦がどんな形で花を咲かせるのか期待して見守りたい。