『繊維×農業』で日本の農業に革命!
ファッションに留まらず繊維の可能性を広げるチャレンジ
株式会社ピーエルジェイインターナショナル 繊維製品の開発
増田 充代
- 都道府県
- 奈良県
- 事業内容
- 繊維製品の開発
- 会社名
- 株式会社ピーエルジェイインターナショナル
- 代表者名
- 増田 充代
- 所在地
-
〒635-0094
大和高田市礒野北町12番5号
- 電話番号
- 0745-27-3395
- ホームページ
Factory Stories
ファッションからはじまり違う分野にも
株式会社ピーエルジェイインターナショナルは2014年に奈良県大和高田市で設立した。
セーターなどのニット製品を中心に大手ブランドのOEM事業を展開し、中国、タイ、ベトナムなど海外との取引もある。海外にある拠点は100%アパレル事業だ。
一方、日本ではアパレル以外の分野に進出し、繊維加工の技術を生かした新しい繊維製品の開発や福祉事業に力を注いでいる。
「ファッション業界とは別の分野に活動の幅を広げようと思ったんです」
目を付けたのは抗菌・殺菌作用を持つ『銅』だ。
銅繊維を製造する会社は他にもあるが、ナイロンやポリエステルの芯の周りに銅を巻くような構造になっていることが多い。
ピーエルジェイインターナショナルでは、これまで培ったニット製品製造の技術や経験を基に、編みやすい銅繊維の開発に取り組んだ。
そうして試行錯誤の末、独自の工法で銅自体を芯にした髪の毛よりも細い0.05mmの銅繊維開発に成功したのだ(構造特許出願中)。
銅繊維の可能性の模索から生まれた新製品
そうして銅繊維とシルクをあわせた抗菌マスクや抗菌シルク手袋、排水溝のヌメリや臭いを抑える水切りネットなどを開発し、クラウドファンディングで100%を超える支援を受けている。
また、リピート購入の要望に応えるため、インターネットショッピングもスタートした。
さらに銅繊維の高い抗菌力を生かす可能性を模索して様々な研究機関に相談をした。その中で可能性を見出したのが『ハダニ対策』だ。
「ハダニの第一人者といわれる東京農業大学の先生を紹介してもらいました」
ハダニとは植物の葉や実の組織を壊して汁を吸う生物だ。農業従事者にとって天敵と言っていい。
ピーエルジェイインターナショナルは農業に関する知見を持っていないため、農業関連機関や大学の先生と相談しながら試行錯誤することになった。
銅繊維がハダニに対してどのような効果があるのかを実証するため、銅繊維の他にもナイロンやポリエステルなど様々な繊維を使用して実験をおこなった。
その結果、ハダニにはナイロンシートが最も効果を発揮するとわかったのだ。
こうして『通せんぼシート(ハダニ行動抑制シート)』が生まれた。
「銅の抗菌効果を期待していたので、まったく予想外の副産物でした」
農家でハダニ行動抑制シートを実際に使用してもらったところ、効果を実感しているという声が届いている。
ハダニだけではなくサクラやウメ、モモなどに寄生する外来昆虫の「クビアカツヤカミキリ」にも効果があるのではないかと期待され、奈良、徳島、和歌山で実証実験をはじめた。
そして奈良県内の寺にある樹齢300余年のサクラの木にも設置して観察を続けている。
偶然が生んだハダニ行動抑制シート
ハダニに効果のある編み方は特殊で、20cm×10mのシートを1台の機械で1日3枚しか作れないという。
ファッションの場合、編みの目をきれいにそろえなければいけないが、ハダニ行動抑制シートはムラのある編み方をしている。ナイロン素材と不規則な編み目がハダニの行動を抑制するのだ。
この特殊な編み方は偶然の産物だった。
実験開始当初は銅繊維の抗菌作用に注目していた。そのため、実験段階では荒い編み方のものを使用していたのだ。
「先生から他の素材でも同じ編み方をして欲しいと言われて、もう一回同じように編めるだろうか……と思ったくらいです」
偶然が重なってハダニ行動抑制シートが完成したのである。
ハダニ行動抑制シートが就労支援にも広がる
ハダニ行動抑制シートをモニター使用してくれる農家を探すために全国をまわり、リンゴやいちご、ナシ、桃、ブドウ、ミカン、なすびなど様々な農作物の生産現場を見学した。
そんな中で会ったのがメロンの水耕栽培だ。
「水耕栽培ではハダニ被害がないと思っていたんですが、どこからかハダニが来るらしいんです」
水耕栽培ならば、ある程度の場所と太陽の光、そしてハダニ行動抑制シートで無農薬農産物の生産ができると確信した。
そうして室内での水耕栽培による農福学産連携(農業×福祉×大学×企業)の就労支援事業をスタートさせた。
繊維×農業のさらなる可能性
ピーエルジェイインターナショナルでは、さらなる可能性を模索している。
農業試験場の協力も得て、胴枯病の桃の木に銅繊維シートを巻き付けた。
「胴枯病は木に菌が入って起こる病気なので、銅の抗菌作用の効果があるんじゃないかと思ったんです」
すると胴枯病によって実をつけなくなっていた桃の木が、健康な木と同じように実をつけたのだ。
銅繊維シートによって植物の病気を防いだり、病気になった木の延命ができたりすれば、農家にとって大きなメリットとなる。
銅繊維が農作物にどのような効果をもたらすかはまだ研究中だが、大きな可能性を秘めていることは間違いない。
銅繊維の挑戦
銅繊維の可能性を広げるための挑戦は農業以外でもおこなっている。
多くの木造文化財では、シロアリ被害や腐食を防ぐために強い薬剤を散布している。
銅繊維がシロアリを通さないというエビデンスは既にある。また、木が腐るのは腐朽菌という菌が原因だ。
そのため銅繊維は文化財保護にも役立つのではないかと考えた。
奈良県の出先機関と共同で、文化財保護の実証実験を短期・長期で開始することが決まっている。
さらに銅繊維のニットウエアを作り、銅繊維を使った電磁波シールドの研究を山形大学と共同でおこなっている。
苦しさよりも楽しさ
数多くの画期的な開発を続けているが、その道のりは平たんではない。
「うまくいかない状況でも楽しんでしまうんです」
アパレルのOEMでも、海外に工場を作ったときや製品の提案をする中で多くのトラブルがあった。それらをすべて楽しみながら新しい道を模索してきたのだ。
好奇心とアイデア、そして物怖じしないチャレンジ精神が、銅繊維やハダニ行動抑制シートのような新しいステージでの画期的な開発を成功させたのだろう。
日本に留まらず海外にも農業革命を
日本の農業では農薬を使いすぎているため、海外に輸出できないものもあるという。
農薬を使わずハダニや病原菌を抑制できるハダニ行動抑制シートや銅繊維シートは農業に革命を起こすことになるだろう。
「何よりも働く人の健康に貢献できると思います」
農薬も文化財保護のための薬剤も、それを散布する人が最も健康被害を受ける可能性が高い。
こうした農薬等の使用を最小限に抑えることは、地球環境や人の健康に大きく寄与することになる。
そして日本に留まらず海外にも発信して、世界の農業に革命を起こしたいと語った。
世界中でSDGsが注目される昨今、ピーエルジェイインターナショナルの取り組みは高く評価されるはずだ。