人の手でしかできないモノづくりの価値
顧客とのフラットな関係性が創る、
モノづくりの新たな可能性

株式会社小川製作所 ステンレスの製缶・溶接・研磨加工/精密機械加工部品製造/設計・開発・技術支援

小川 真由

都道府県
東京都
事業内容
ステンレスの製缶・溶接・研磨加工/精密機械加工部品製造/設計・開発・技術支援
会社名
株式会社小川製作所
代表者名
小川 弘之
所在地

〒124-0021

葛飾区細田1-10-20

電話番号
03-3657-4196
ホームページ

https://ogawa-tech.jp/

Factory Stories

厨房器具製造から建築関連の金属加工へ

小川製作所は小川真由の祖父・源次郎が厨房器具メーカーで修行を積んだ後、1953年に個人事業で創業した。

当時、主に製作していたのはステンレスのワゴンやシンクなどの厨房器具だ
1954年に学校給食法が制定されてからは、給食用のガス炊飯器も製作していたという。

「厨房関係の仕事を中心にしていましたが、大手厨房器具メーカーさんにどんどん仕事が移ったために縮小していきました

そうして、現社長の弘之が大学を卒業して入社した1967年頃から、板金と溶接の技術を生かして建築関連の金属加工をおこなうようになった

現在の事業の3本柱

取締役を務める真由は2012年に入社し、その後2015年には法人化も果たした。

「それまでは父が個人事業で細々と続けてきたんです。私が入社して営業をするようになると、職人としての父、経理の母というミニマムな形でうまく仕事が回せるようになりました」

徐々に業務の幅を広げ、現在では大きく3本の柱で運営をしている。

一つ目の柱は祖父の代から受け継がれている金属アナログ加工工程
板金や製缶、溶接、研磨などの手仕事を社内工程で請け負っている。

二つ目の柱は機械の精密部品製造
約100社の協力会社とのネットワークで、航空宇宙や半導体、医療分野などの先端技術に関わる機械の精密部品を製造している。

そして三つ目の柱が、3D-CADやデジタル技術を活用した設計や開発支援だ。

このような3本の柱を確立することができたのは、源次郎、弘之と受け継がれた金属加工の技術と、真由が入社前に得た経験があるからだ。

飛行機設計から機械部品製造

大学で航空宇宙関係の研究をしていた真由は卒業後、航空機メーカーに就職した。
そこで開発部門に配属され、新しく開発する航空機の基礎設計に関わることができた。

「その会社で私が希望していた開発の重要な部分は概ね経験することができました」

小川製作所を継ぐことを意識していた真由だったが、航空機メーカー退職後は精密機械加工工場に転職した。

「航空機メーカーと町工場では仕事が全く違うので、製造工場で加工の経験を積みたいと思ったんです」

ところが、入社した年の夏にはリーマンショックで経営が悪化してしまったという。

5軸加工機などの機械加工の修行をしたいと思っていたんですが、仕事量が10分の1くらいになって未経験の私にまわせる状態ではなくなったんです」

そのとき当時の社長から指示されたのは新規営業だった。
真由はWebサイトを充実させるなどして営業ツールを揃えたり、DM営業をしたりと様々な方法で新規顧客の開拓をおこなった。

営業の他には、3Dモデルの作成や治具の設計、加工用のNCデータの作成、バリ取りや洗浄といった手仕上げなど、加工補助や品質保証部門を任された。

航空機メーカーで精密な設計やプロダクトの最終段階を経験し、機械加工工場では加工や品質保証そして営業を身に付け、真由は小川製作所に入社したのだ。

自動化が進んでもなくならない手仕事

小川製作所の社内工程は人の手でしか作れないモノを生み出している。

たとえば、医療機器の鉗子(かんし)は、鍛造で作られるため表面がザラついている。
これを手仕事で研磨して仕上げなければいけない。
同じロットであっても個体差が大きいため自動化はできないのだ。

「研磨によって使い心地も変わるため、当社だと今の所、私しかできないんです。」

それほどの技術が必要な作業なのだが、単価は決して高くはない。
そのため技量を上げることで品質を高めつつ加工時間を短くすることで対応している。

それでも小川製作所の製造単価は、従来の製造単価よりも高くなることが多い。従来から60代〜70代の高齢の職人が低単価で請け負っていたものを、働き盛りの30代〜40代の職人が担っているためだ。

結果的にその価格で折り合いがつけられる顧客は限られてくる。

また、ただ加工をするだけではなく、たとえば合理的な製造工程を提案したり、メーカー側の企画・設計まで踏み込んだりと、コンサルティング的な関わり方をすることもある。

メーカーと小川製作所が、エンドユーザーに対する価値を高めるために互いの持つ知恵や技術を出し合える関係を築いているのだ。

人の仕事に価値をつける

製造業では、大型機械や最先端の精密加工機などを導入して自動化し、大量に生産できる仕組みを築いてきた

そして設備投資を製品単価に反映する一方、価格競争に勝つために配送費や検査、手仕上げなど、人がおこなう仕事の費用を無償提供する傾向がある。

しかし、廃業や若者離れなどにより、多くのサプライヤーで慣習的に無償で行っていた手仕事を担う人材が不足するようになった

「手仕事ができなくなったのは担い手がいないから。担い手がいないのは対価が発生しないからなんです」

これを続けていけば、さらに担い手が減少していくだろう。
しかし、自動化が進んでも人の手が必要な仕事がゼロになることはない

「自動化できるものは自動化しなければいけないと思います。だからこそ、人がやらなければいけない仕事こそ価値が高くなければいけない、というのが当社のスタンスなんです」

製造業の悪循環からの脱却

「製造業の環境が悪くなった原因には、顧客が優位すぎることと設計者の現場離れがあると思っています」

日本では取引関係を上下関係と捉えていることが多い

「ビジネスには仕事の流れがあるだけで、本来上下関係はないんですよ。でも、上下関係と捉えることで悪循環に陥ってしまうことが多いんです」

大手の仕事では、設計者が書いた図面通りの製品をつくるよう下請け業者に依頼する。
しかし、加工の現場から見ると、物理的に不可能に近い図面のこともある。

「直接、設計者に伝えられればすぐに修正できるものでも、間に商社や資材部門が入ることで伝わりづらくなり、図面が修正不可能な絶対的な指示として流通することも多くなります。そして現場では無理な加工を安い対価でやらなければいけなくなります。

上下関係があるため、無理な加工や安い単価に対して意見を伝えることが難しいのだ。
そのため現場はどんどん疲弊して廃業が加速してきた側面もある。

「加工を任せられる工場が減ったために、仕事を出せなくなった中間業者や中小メーカーの廃業も増えています

この悪循環を断ち切るためには、まず設計者が製造現場を知り、製造側の事情を汲んだ上で図面を書けるようになる必要があるだろう。

そして、取引関係をフラットにして、対等なパートナーとして相互に必要な意見を伝えられるように変化していく必要がありそうだ。

小川製作所では現在『人の仕事に価値をつける』というスタンスを掲げ、賛同する取引先や提携先を広げている。

愚直に仕事をまっとうして、お客さんに対して必要な意見をしっかり伝える。私たちがやっていることにどれだけ賛同いただけるのか。これはある意味『チャレンジ』だと思っています

小川製作所のスタンスが製造業全体に広がれば、誰もが生き生きとモノづくりに向き合えるようになるのではないだろうか。

真由は、他の媒体でも付加価値経営についての取り組み方などを発信している。