

全国から相談が集まる熱処理工場。
創業から承継する技術を武器に
孫の世代まで見据えたステージを目指す。
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新羽金属工業株式会社
- 焼入れによる変寸や歪みを考慮した総合熱処理加工
奥谷将之
- 都道府県
- 神奈川県
- 事業内容
- 焼入れによる変寸や歪みを考慮した総合熱処理加工
- 会社名
- 新羽金属工業株式会社
- 代表者名
- 奥谷将之
- 所在地
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〒223-0057
横浜市港北区新羽町964-18
- 電話番号
- 045-543-2813
- ホームページ
Factory Stories

人柄と牽引力ではじまった町工場
新羽金属工業の三代目社長を務める奥谷将之は、会長の森田晋から森田の父が創業した1973年当時の話をよく聞くという。
「僕は創業者と会ったことがないんですけど入社したとき、創業時代から働いている社員もいたんですよ。創業者は人に好かれて、周囲の人を引っ張っていく方だったようです」
森田の父は、熱処理の会社に勤めて技術を習得したのち独立し、新羽町駅近くで新羽金属工業をスタートさせた。
高度成長期は終わりを迎えた頃だったが、工業化の進展は続いており、熱処理加工のニーズも高かった。
『とにかく早く加工してほしい』と言われる時代で、製品を運ぶバンに詰め込めないほどの量をどんどん製造していたという。
50年続く『ソルト焼入れ』の技術
新羽金属工業創業当時から今も承継されている熱処理技術のひとつが『ソルト焼入れ』だ。
ソルト焼入れは金属を高温の塩浴剤に浸けて熱処理する方法で、現在では取り扱う会社も減っているという。
「大手企業から直接ソルト焼入れの問い合わせが来ることもあります。他の方法で焼入れをしているけれど不良が1割程出るからなんとかならないかという相談です」
ソルト焼入れは、液体に浸けて熱処理をおこなうため浮力によって変形を抑えられるのだ。それだけでなく、急速な加熱や冷却が可能なので短い時間で加工できる。
「昔は、熱処理したい部材を持ち込んで、終わるまで待っている人もいたらしいですよ」
メリットが多い熱処理だが、薬剤の調整や管理などが難しい。その技術を新羽金属工業では約50年間引き継いできているのだ。

熱処理は中間工程こその難しさがある
熱処理は、製品の製造工程の中では中間工程になる。
奥谷は「一見単純そうに見えるけれど一番難しいのではないか」と語った。
これは、材質の特性や前後の工程、加工後のひずみなどまで理解しなければ適切な加工ができないからだ。
だからこそ奥谷は製品の完成形を意識して加工工程全体に目を向けている。
「お客様にどんな前工程をするのか、後工程があるのかなどを聞くんです。そうすると、前工程はこうした方がいいとか、後工程が必要だとか、具体的なアドバイスができます」
熱処理だけに目を向けるのではなく、加工工程全体に目を向けているからこそ、熱処理によってどのような結果になるかを明確に予測し提案ができるのだ。
ここには「スムーズに、みんなが困らず、早く安く仕上げる」という想いがある。
その姿勢は、奥谷が師匠と呼ぶ会長の森田から受け継がれているものだ。
「会長はいつも熱処理のことだけを考えるんじゃないと言っていました。会長の仕事を見ているうちに、その言葉の意味がわかりました」
元サッカー少年が人生の師と出会う
奥谷はサッカーに打ち込む学生時代を送り、高校卒業後は後にJリーグとなる社会人チームに所属した。しかし、怪我などにより20代前半で引退することになった。
様々な仕事をしたが長続きせず、バーで働いているときに同じチームでプレーしていた先輩と再会したという。
その先輩が新羽金属工業に勤めていたことで、森田と会うことになったのだ。
「たまたま会長とお酒を飲んで話す機会があって、それが面接みたいな感じで入社することになったんです。でも、熱処理のこともよく知らなくて、最初の3日くらいで辞めようと思ってたんですよ」
そんな奥谷の気持ちが大きく変わるきっかけが2つあった。
ひとつは、入社から半年後に工場が新しくなったとき、約300人を招待しておこなう竣工式の司会に抜擢されたことだ。
「企画から全部考えて大成功したんです。社員にもお客様にも覚えてもらうことができてチャンスだと感じました」
もうひとつが、車の運転ができない先輩が担当していた会社のクレームを聞きに行ったことだ。
「製品が折れてしまったんですが、『こうしたら次は折れないんじゃないですか?』と話していたら、次から僕に電話がかかってくるようになったんです。そうしたら面白くなってきたんですよね」
それから現場では、少しでも多くの技術を吸収しようと意欲的に取り組むようになった。さらに仕事をできるだけ早く終わらせて勉強をする時間を作ったのだ。
その猛勉強の結果、入社した年に開催された金属熱処理技能士試験で二級を取得することができた。
「31歳の入社は遅咲きだと思っていたので、絶対に合格したかったんです」
その後一級も取得し、現在は金属熱処理技能士特級を取得している。
「お客様に信頼されるためには技術が必要です。さらに知識があれば、しっかりとお客様に話ができます。知識をつけることは鬼に金棒のようなものですよね」

47都道府県から依頼されるマーケティング思考
奥谷が入社してから取り組んだのは技術や知識の習得だけではなかった。
ホームページを制作して、ホームページから問い合わせが来る仕組みをつくり、名刺や会社案内を刷新。
さらに『焼入れ新聞』を発行して請求書に同封することでお客様との接点を増やした。
「マーケティングをしてないなと思ったんです。『焼入れ新聞』はお客様からも面白いねと言ってもらえるようになりました」
こうした情報発信をきっかけにして、新羽金属工業株式会社の顧客は全国に広がり、現在では47都道府県すべてから熱処理の注文が入っているという。

『なんでもできる』を効率的に。
全国から声がかかるのは、新羽金属工業がソルト焼入れや真空、高周波、真空浸炭などあらゆる熱処理加工ができるからでもある。
「なにより徹底しているのは合理化と効率化です。ダラダラ仕事をしても評価しません。8時間でどれだけやるかが大事だと社員にも伝えています」
どの作業をどのようにやるか、どんな順番でやるか、また作業の隙間で何をするかなど無駄なく効率的に進めるよう徹底して教育することで、残業をすることなく機械の稼働率を上げることができているのだ。
多能工で若者が活きる未来へ
奥谷は熱処理加工のイメージを変えていくための第一歩として毎朝、工場の清掃をおこなっている。
「いつどんなタイミングで来てもきれいだと言われるような場所にしなければ若い子は入ってこないと思うんです」
そして若者がやりがいを持って楽しく働けるような多能工化を目指している。
熱処理の加工技術だけでなく、営業やマーケティング、検査など様々な知識を持つことで、広い視野を持って仕事の中で楽しみを生み出せるような環境だ。
さらに、動画やホームページのデザイナーやカメラマンなど集めて互いに刺激を与え合いながら、新羽金属工業株式会社をより多彩な事業展開ができる会社にしていきたいという。
このような理想に向けて邁進するのは、森田の言葉を大切にしているからだ。
「会長がいつも言っていたのが『今だけを考えるな、自分の孫の世代まで考えろ』ということです」
奥谷はその想いを受け継ぎ、若い世代が本当に仕事を楽しめるような変化を生み出そうとしている。