五感を研ぎ澄ませる技術で試験片製作。
モノづくりを3Kから3Mに変えて
子どもが憧れる職業に。
ムソー工業株式会社 試験片・試験治具・実験装置製作
尾針 徹治
- 都道府県
- 東京都
- 事業内容
- 試験片・試験治具・実験装置製作
- 会社名
- ムソー工業株式会社
- 代表者名
- 尾針 徹治
- 所在地
-
〒143-0003
大田区京浜島2-13-9
- 電話番号
- 03-3790-0666
Factory Stories
商社からメーカーへ
ムソー工業は1950年に創業した。
尾針徹治の祖父・嘉一は武蔵工業大学で工業の指導をしていた。
そこで実験や研究に必要なものを作っていたのだが、当時の学長の勧めもあり独立することになったのだ。
「創業当時は、まわりの工場に必要なものを作ってもらって納品するという商社的な立ち回りをしていました」
その後、増えてきた業務を効率的におこなうために加工を内製化するようになり、品川から大田区の京浜島に移転した。
商社からメーカーへの転換は、二代目・輝男の強い想いもあったからだという。
「お客様からつくっているところを見たいと言われても、自信を持って見に来てくださいと言えないことにもどかしさを感じていたようです」
未知を既知にしていくための仕事
ムソー工業がメインでおこなっているのが試験片の受託加工だ。
『鉄』といっても、様々な材料を混ぜ合わせて作られているため、その種類は数百にのぼる。
「微妙な配合の違いで素材の特性が変わっていきます。使い道に応じて材料を混ぜてカスタマイズするのが材料屋さんのノウハウですね。そうした素材の特性を評価するため試験片を加工するのが当社の主な仕事です」
たとえばスカイツリーでは、これまでにない高さと面積を持つ建築素材が必要になった。
それに耐えられる鉄とはどんな配合なのか、それをどのように加工するのか、溶接や組み立てをおこなうのかなどまで検討して素材を作り出していく。
「スカイツリーの足元に使われている鉄は、スカイツリー専用に作られた鉄なんです。当社ではそうした新しい素材をこの世に生み出す一旦を担っています」
ムソー工業では、そうした未知の素材を既知にしていく重要な業務を担っているのだ。
五感を研ぎ澄ませた経験の蓄積
ムソー工業の技術を支えているのは人の五感だという。
「加工するときの音や振動、場合によっては匂いなども切削条件のひとつになり得るんです」
それらの経験は、ビックデータのない時代から挑戦を続けてきたことで蓄積されたものだ。
「新しい材料をどうしたら切れるかなどは挑戦してみないとわかりません。ただし、なるべく時間も材料も無駄にしないように挑戦しなければいけないんです。ここに蓄積された経験が生きてくるんです」
ムソー工業に持ち込まれるのは、非常に貴重な材料のこともある。予備材のないものもある。中には火災や事故現場から回収された金属部品のこともあるのだ。
「挑戦は必要ですが、手あたり次第に削っていったらあっという間に材料がなくなってしまいます。最短で加工条件を割り出すことが必要です」
五感を研ぎ澄ませて目の前のモノに向き合うことで、数値では表すことが難しいデータを経験として蓄積できているのだ。
お客様のニーズに応えるスピード感
徹治は、ムソー工業がお客様に選ばれる理由のひとつは『スピード感』だと語る。
「お客様のゴールを考えたとき、一刻も早く成果を出したいとか、製造のスケジュールを立てたいとかがあります。そのためにスピード感は大切だと思っています」
お客様のゴールは試験片の納品ではなく、その先に評価や改善など様々な工程がある。
徹治はそうしたお客様のゴールを見据えたスピード感を大切にしているのだ。
そのために、問い合わせが入った瞬間から、返事のスピード、見積りのスピード、材料を届けるスピードなどすべてのリードタイムを短くしていくことを意識している。
「京浜島の地の利も大きいです。京浜島だけで材料屋から最終工程の会社や物流など300社が集まっていて、自転車で行ける距離に協力会社があるんですよ」
京浜島だけで100%完結するわけではないが、大田区まで範囲を広げればほとんどのことが解決できるほどのネットワークがあるという。
「たとえば、宅配で送るとそれだけで1日以上必要です。でも、今から持っていきますといえば1時間で済みます。これがもしも3社経由しなければいけない作業ならば、移動時間だけでスピード感が大きく違ってきますよね」
3Kから3Mへ
「きつい」「汚い」「危険」は昔から製造業のイメージとして言われてきている『3K』だ。
「ドイツでは製造業のマイスターは子どもたちにカッコイイと思われています。社員さんたちも自信に満ちた笑みを浮かべているんですよ。イタリアでも職人さんの仕事が美しくて素晴らしいものだというイメージがあるんです」
海外の製造業を目の当たりにして、日本の製造業の技術は素晴らしく、カッコイイものをつくっているのに、かっこいい見せ方ができていないことに気付かされたという。
そこで徹治は「モテる」「儲かる」「認められる」の『3M』を目指すことにした。
「子どもたちから憧れられて、こんな風になりたいと思ってもらえるような見せ方をしていきたいです」
子どもたちからモテるモノづくり
徹治の目指す『3M』の一環で、子どもたちの会社訪問や経営者が学校を訪れて授業をするなどの取り組みもおこなっている。
塾とコラボレーションしたワークショップでは、夢中になって研磨をしていた子どもがいたという。
「ものすごい集中力で研磨をしてピカピカに仕上げたんです。その子を褒めるととても嬉しそうな顔をしていました。その子はインターン制度のある工業高校に進んで、研磨屋さんにインターンに来て、卒業後はその研磨屋さんに入社したんです」
こうした取り組みを通して、子どもたちにモノづくりを体験してもらい、モノづくりの楽しさやかっこよさを感じてもらいたいと考えているのだ。
そして、大人の経験を伝えることで、未来が明るいと思ってもらえるようにしたいという。
「幸せな人をたくさん増やしたいというより、不幸な人を少なくしたいんです。自分が自分でいられること、受け入れてもらえること、そして自分が誰かの役に立てることが大事なんじゃないかと思います。千里の道のたった一歩かもしれません。それでも子どもたちに何か伝えていけたらいいなと思っています」
モノづくりの可能性は無限
徹治はモノづくりのポテンシャルをもっと引き出して、ムソー工業をモノづくりの可能性を広げられる会社にしていきたいと考えている。
「こんな会社があったんだ、こんな技術があるんだと気付くことが今もあります。そうした会社が連携したら新しい可能性がたくさんあるんじゃないかと思うんです」
1社単独でできることには限りがあるだろう。
しかし、それぞれの会社が持つ技術をかけ合わせていけば、その可能性は無限に広がると考えているのだ。
「製造業という枠だけじゃなく芸術と掛け合わせてもいいと思います。別ジャンルとされる金属、非鉄、樹脂を掛け合わせたら新しいポテンシャルの可能性が出るかもしれません」
そのために徹治自身もさらに勉強をしていき、モノづくりの可能性を広げるネットワークの起点になっていきたいと考えている。
そうした新しい挑戦は、子どもたちの目にもきっと輝いて映るだろう。