手技で0.1の精度を生む技術力。
75年以上続いたモノづくりを事業承継でつなぎ、
さらなる挑戦を目指す。
株式会社倉本製作所 ストレーナー用スクリーン製造、ステンレス加工
荒木康師
- 都道府県
- 大阪府
- 事業内容
- ストレーナー用スクリーン製造、ステンレス加工
- 会社名
- 株式会社倉本製作所
- 代表者名
- 荒木康師
- 所在地
-
〒537-0012
大阪市東成区大今里2丁目5番11号
- 電話番号
- 06-6976-4846
- ホームページ
Factory Stories
1945年から続く金属加工工場の承継
倉本製作所は先代社長・倉本の父親が1945年に創業した。
創業当時は個人事業として、食品用缶詰の缶切りや地球儀の金属アーム製作をしていたようだ。
1965年にはバルブ業界や石油業界向けのストレーナー用スクリーンの製造をスタートして、現在でも主力製品のひとつとなっている。
荒木康師は後継者のいなかった倉本から倉本製作所を引き継いだ。
「倉本さんは当時80歳くらいでした。引き継ぐ条件は、従業員の雇用と業務をそのまま継続することでした。私どもも業務を変えるつもりはなかったので、その条件は有り難かったんです」
工事会社から製造業に
荒木は元々工事会社で働いていた。
「父が創業して、今は兄が経営をしている工事会社で働いていました。現場に出ることもありましたが、工事の管理や経理など社内の仕事の方が多かったんですよ」
異業種である製造工場の社長に荒木が就任したのは、その工事会社の工事で利用する鉄製の管路の製造を検討していたためだ。
「鉄道関連の工事でケーブルを這わせるための管路が必要になります。それをグループ会社で製作できたら、スムーズに供給ができてコストも抑えられるのではないかと考えたのがはじまりですね」
倉本製作所はストレーナー用スクリーンやメッキ工場用のバスケットなど、金属を円筒形に加工することを得意としている。
この技術が管路の製造にも生かせるのではないかと考えたのだ。
管路の製造に立ちはだかったハードル
荒木が製造業に参入したきっかけは管路の製造だったが、管路の製造業務はおこなっていないという。
「管路は、鉄道が動いていない夜中に現地調査をして採寸しなければいけません。その上で図面を起こして製造します」
管路の製造をおこなうためには、製造の技術力だけではなく、夜中に動ける人材も必要となるのだ。 しかも、現場を見て必要な管路の形状などを判断して設計ができる人材である。
従来の業務とは違う動き方をする人材の確保と、加工するために必要な道具や技術を考えると、新たに管路製造をはじめてもコストが合わない可能性が高いという。
そのため当初の目的だった管路の製造には踏み切ってはいないが、ケーブル取り付け金具などの市販品では対応できない特殊な形状の部品製造を行うことにより、工事会社の対応力向上に寄与している。
また、異業種から入ってきたからこそ持てる客観的な視点を生かした改善などに取り組んでいる。
強みと弱みは表裏一体
倉本製作所は、職人の手作業による工程が多い。その技術力によってお客様のニーズに細やかに対応できる。
たとえばストレーナー用スクリーンならば、配管サイズ10Aから350Aまで幅広いサイズに対応ができるのもそんな技術力の表れのひとつだ。
荒木が気づいた倉本製作所の強みは、職人が自分の仕事にプライドと責任感を持って、製造に関わる1から10まですべておこなえるチカラだ。
しかし、それが同時に弱みにもなっているという。
「職人ごとの仕事量に格差があると感じたんです。自分が担当をしている仕事に責任を持つのは良いことだと思います。でも、それが強すぎて他の人に触らせたくないという意識があるのではないかと感じました」
そこで荒木は、職人ひとり一人に自分が抱えている業務を書き出してもらい、発表する機会をつくった。
その業務の棚卸によって、月々の注文数と作業スピードが合っておらず、納期に間に合っていないことが発覚したのだ。
「ひとりでこなすにはキャパオーバーの業務量になっていました。そうするとどんどん納期が遅れていってしまいます。『お客様はやさしいから』と言っていましたが、私は納得がいきませんでした」
そこで荒木はどうすれば納期に間に合うようにできるかを話し合い、ひとりで抱えていた業務を部分的に他の従業員に割り振るようにしたのだ。
「ひとりに偏っていたところを部分的にでも解消できたので少し余裕が生まれたと思います。ギリギリではありますが、納期内に製造を完了させられるようになりました」
課題は知識と技術の承継
異業種から製造業に来た荒木が倉本製作所を引き継ぐことができたのは、職人たちの経験と技術によるところも大きいかもしれない。
たとえば、円筒形をつくるために、板材を3本ロールで曲げた後に溶接をおこなう。
このときお客様の要望や板厚によって重ねて溶接するか、突き合わせて溶接するかが変わってくる。 こうした成型を状況に合わせながら0.1~0.2mm程度の精度に仕上げていく技術力があるため、お客様からの信頼を得ているのだ。
個々の職人の技術力とともに倉本製作所を支えているのは工場長の経験と知識だ。
「お客様のどんな要望に対しても、『こうすればできるんじゃないか』『この方法ならうちで加工できる』と即時に判断して伝えることができます。特に新しい要望などはお客様のニーズを聞いて形にするまでの采配や段取りが一番大変なんです」
異業種から参入した荒木にとって、工場長は頼りになる存在なのだ。 しかし、同時にそこが不安材料でもあるという。
「工場長の年齢が75歳なんです。もしもその方がいなくなってしまったらどうなってしまうかわかりません。だから技術や知識の承継をしていかなければいけないと思っています」
目立たなくても価値がある製造
倉本製作所では、これから新しい挑戦もしていきたいと考えているという。
「たとえば、外注に出しているヘラ絞りを内製化できれば受けられる仕事の幅が広がって、お客様の要望に応えられるようになるんじゃないかと思っています」
ヘラ絞りならば、現在よりも少ないロットの注文にも対応できる可能性があるという。
「ヘラ絞りに限らず、色々な挑戦をしていきたいですね。ただし、まずは既存のお客様を大切にした上で次のステップとして考えています」
そのために荒木が一番に考えているのが、工場長が持つ技術や知識を承継することだ。
事業承継、技術承継は倉本製作所だけでなく、製造業全体の問題でもある。
「製造業には後継者問題があります。モノづくりがなければ私たちの生活は成り立ちません。でも、多くのモノづくりは地味で目立たないんですよね」
たとえば、倉本製作所が製造しているストレーナー用スクリーンも、一般的にはあまり知られていないだろう。
しかし、船舶や産業機械などで重要な役割を果たしている。
「地味で儲からないイメージがあると、後継者がなかなかいないんじゃないかと思います。もっと社会的な意義とか、製造業は儲かるんだよとかを伝えていかなければいけないと思います」
荒木が引き継がなければ、倉本製作所で育った技術は途絶えていたかもしれない。
そんな荒木だからこそ、製造業の後継者問題に強い危機感を覚えるのだろう。