独自の機械で生産する精度の高い中子。
特徴の違う2種類の製造方法を生かして
お客様のニーズに応える。
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黒龍産業株式会社
- 鋳造用砂中子製造
浅埜啓子
- 都道府県
- 愛知県
- 事業内容
- 鋳造用砂中子製造
- 会社名
- 黒龍産業株式会社
- 代表者名
- 浅埜 啓子
- 所在地
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〒444-0335
西尾市港町6番地4
- 電話番号
- 0563-58-8400
- ホームページ
Factory Stories
鋳造を支える中子メーカー
黒龍産業は、1964年の創業から鋳造で中空部にはめ込む中子(なかご)の生産をおこなっている。
創業者は三代目社長・浅埜啓子の祖父だ。
「祖父は元々漁師をしていました。碧南の埋め立ての補償金を元に創業したんです」
社名は祖父が漁で使っていた船『黒龍丸』から名付けたという。
「祖母の実家が中子をしていたので、祖父はそこで仕事を覚えたようです。創業者は祖父ですが、父も中学を卒業してすぐに一緒に働きはじめたので、祖父と父が一緒に創業したと言ってもいいかもしれませんね」
中子の製法として一般的なシェルモールド法で生産していたが、1983年から父親の提案によってアミンコールドボックス法での中子の生産もはじめた。
このコールドボックスの中子が現在も黒龍産業の大きな強みになっている。
親族だからこそ混迷した継承
浅埜は2006年に黒龍産業に入社して経理業務を担当した。
当時は、浅埜の弟である長男が会社を継ぐ予定だったため、浅埜は会社を継ぐことを考えていなかったという。
しかし長男が会社を退職したため跡継ぎ問題が持ち上がった。
黒龍産業で働いていたのは浅埜の夫や弟(次男)、伯父やいとこといった親族が大半を占めていた。
「次男が会社を継ぐという選択もありましたが、次男は職人気質なので、会社全体を任せるよりも現場を任せた方が良いと判断されました」
当時の現場は、シェルモールドはいとこが中心に、コールドボックスは次男が中心に回す形ができていた。
そうして会社全体を見たときに社長に適任だと白羽の矢が立ったのが浅埜だった。
「2014年に取締役になったとき、跡を継ぐ覚悟が決まりました」
その1年後の2015年に浅埜が社長に就任したのである。
社内環境と労働環境の整備
浅埜が社長に就任してから取り組んだのが社内環境の整備だ。
長い間親族で経営されていたため後回しにしていた部分だった。
親族ならではの結束力がある反面、馴れ合ってしまうこともある。
社内でのコミュニケーションや5Sの取り組み、敷地へのフェンスの設置など、ひとつずつ整備を進めた。
そうして2021年から新卒採用に取り組み、2022年と2023年に新卒を採用することができた。
「平均年齢を見ても、このままでは衰退していってしまうと思ったからです。新しい子たちが入ったことで社内の雰囲気も変わってきていますね」
さらに2024年度には新しい機械を1台購入して、工場内のレイアウト変更も計画しているという。
これは作業者の体への負担が大きいコールドボックスでの中子製造の負担を軽減するためだ。
浅埜は営業面ではコールドボックスの受注割合を増やしていこうと考えている。
しかし、体に負担が大きいため業務量が増えるほど作業者の負担が増してしまうのだ。
浅埜は働きやすい環境を整えることで地盤を固めて、次のステップに踏み出そうとしているのだ。
コールドボックスの特徴
中子の生産には『シェルモールド』と『コールドボックス』の2つのタイプがある。
黒龍産業でコールドボックスを導入した1983年には、日本でコールドボックスができる会社はほとんどなかった。
そのため、社内からも反対の声が大きかったという。
「今でもシェルモールドの中子が主流です。当社も売上割合でいうと、シェルモールドが6割、コールドボックスが4割ですね。これを5:5から4:6くらいにしていきたいと思っています」
コールドボックスの技術やノウハウは黒龍産業の大きな強みだからだ。
一般的にコールドボックスは木型の上から砂を吹き込んで形にしていく。
しかし黒龍産業では自社で機械を改造し、砂を吸引して形にしていくのだ。
「木型に対する砂の入り方が違うんです。うちの工法の場合は仕上がりの精度が高く複雑な形状にも対応ができます」
製法を顧客が選択できる
シェルモールドとコールドボックスでは優位点が違う。 たとえばシェルモールドの場合、重量が比較的軽く量産のための中子ならば単価を抑えることができる。 一方、コールドボックスの場合は、中子の寸法精度が高く、少量の場合は単価を抑えることができる。
「たとえば5個や10個といった少量であっても、シェルモールドは型を300度に熱して作るためリードタイムが長くなります。そのため単価が高くなってしまうんです。だから少量の場合はコールドボックスの単価の方が安くなります。逆に、数百個、数千個という単位ですとシェルモールドの方が1個単価は安くなります」
黒龍産業の強みは、お客様の生産ニーズに合わせてコールドボックスかシェルモールドかを選択できることだ。
「どちらの工法も利用しているお客様は、製品の大きさや形状の違いなどによって、試作をしながらどちらを使うか選んでいます」
価格面や品質面などから適した工法を選択できるのは、鋳造会社にとってもメリットなのではないだろうか。
コールドボックスのニーズ開拓
黒龍産業がコールドボックスの売上割合を今より増やそうと考えているのは、シェルモールドをおこなう中子メーカーは他にもあるからだ。
そこで勝負をするのではなく、他があまり力を入れていないコールドボックスを強化することで会社全体を強くしていこうと考えている。
「鋳造メーカーさんの中には、大物や試作などの中子を内製しているところがあります。ただ中子をつくるにはスペースも必要なので、生産量を増やしたり効率化したりするとき、当社のコールドボックスのニーズがあるのではないかと思っています」
コールドボックスの特徴を生かして新たなニーズを開拓することで、さらなる売上の拡大を目指しているのだ。
縦と横のつながりを強化
鋳物業界について浅埜は楽観視をしていない。
「会社をたたむ鋳物屋さんも増えています。自動車のEV化が進めば必要な部品も減るでしょう。それでも鋳物がゼロになることはないと思っています」
業界規模が少しずつ縮小する中で、浅埜が重要視しているのは縦と横の関係性を密にしていくことだ。
「お客様との関係を近くしていかなければ情報が入ってきません。情報を得ることは今後を考える上でも大切だと思っています」
そして同業者との良好な関係性を築くことも大切だ。
「20年くらい前まではライバルとして競い合っていましたけど、今は横のつながりで協業していけるコミュニティーになることが必要だと思っています」
互いに得意なところを活かしあって協業していくためにも、黒龍産業のコールドボックスの技術は大きな役割を担うだろう。
「これまでは内部の環境整備をして足元を固めてきたので、これからはもう少し先を描いていけるようになりたいと思っています」
製造業界では若い人材の獲得が課題となっている。
そんな中、内部環境を整えることで新卒を採用できた黒龍産業は、新しい風を受けて飛躍する準備が整ってきたのかもしれない。