銅の美しさを多くの人に伝えたい。
銅に特化することで磨いた、
柔らかな銅を巧みに加工する技術。
-
株式会社石垣商店
- 銅・真鍮専門加工
石垣 雅裕
- 都道府県
- 愛知県
- 事業内容
- 銅・真鍮専門加工
- 会社名
- 株式会社石垣商店
- 代表者名
- 石垣 雅裕
- 所在地
-
〒463-0068
名古屋市守山区瀬古1丁目629番地
- 電話番号
- 052-793-3080
- ホームページ
Factory Stories
伸銅品問屋からのスタート
石垣商店は1948年に個人事業として創業し、1951年には株式会社化された。
石垣雅裕の祖父である石垣宗市は元々金物問屋に勤めていた。その問屋が廃業したため、それまでの経験を生かして伸銅品や金属加工品の問屋をはじめたのだ。
問屋業を営んでいく中で、お客様からのご要望に応えて金属の穿孔や切断などの簡単な加工を請け負うようになり、徐々に金属の加工業務の比率を高くしていった。
「問屋業は動くお金が大きいため資金繰りが厳しいんです。それに取引先の倒産によるリスクも大きいんですよね。加工を増やしていったのはリスク軽減するという意味合いもあったようです」
こうして石垣商店は金属加工業務に力を注いでいった。
現在では、変圧器や制御盤向けの銅ブスバー加工品の製造がメインになっている。
銅素材に特化
石垣商店が特化しているのは『銅』の加工をメインにしている点だ。
しかも、切削・旋盤・プレス・曲げ・転造さらに溶接まで、一連の加工をワンストップでおこなうことができる。
工業製品等の中で使われる素材の大半は鉄が占めている。そのため鉄の加工工場は多い。しかし金属加工工場で銅を扱うことは少ないという。銅の仕入れ価格が高く、受注が少ないため、仕入れた銅が在庫として残ってしまうリスクがあるからだ。
そんな中、石垣商店では全体の約90%を銅の加工品が占めている。
「銅の加工をやっている工場が少ないので、銅をメインにしているのは珍しいとお客様からもよく言われます」
銅を専門にすることで、仕入れた材料を無駄なく使うことができる。これは、問屋業時代から銅を取り扱ってきた石垣商店ならではの強みなのだろう。
銅に特化したことで磨かれた技術力
鉄の加工工場が銅を扱えないのは在庫リスクだけが原因ではない。
鉄と銅ではその取扱いが全く違うのだ。
鉄に比べ、銅は粘りが強く、やわらかく傷つきやすい。その違いを熟知しなければ、銅を加工しても傷をつけたり精度が落ちたりしてエラー品が増えてしまう。
銅素材のクセを知り加工技術に反映するためには、実際に加工をして経験を積む必要があるのだが、受注頻度が少ないため経験を積む機会も少ない。
そのため、鉄の加工場は銅を取り扱うことに消極的になるのだ。
石垣商店には、創業から70年以上銅と向き合い続けてきた経験とノウハウが蓄積している。
「お客様には、銅なら石垣に任せておこう、と思っていただけていると思います」
傷を付けない曲げ加工
銅はやわらかな素材なので通常の金型で曲げると傷がついてしまう。
「基盤の電気を通す面の部品に傷があると火花が飛んで炎上する危険があります。そのため当社では表面に傷がつかないような加工をしています」
長年の試行錯誤で、独自に設計・製作したアタッチメントを金型に取り付けることで傷がつかない曲げを実現している。
世の中に出回っている銅製品を見ると、石垣商店独自の基準ならばエラーと判別されるような傷がついた製品もあるという。
傷がつきやすい性質の銅であるためある程度の傷は許容されているのだろう。
しかし石垣商店においては、傷がつかない加工こそがスタンダードなのだ。
QCD以外の部分にこそ選ばれる理由がある
石垣商店がお客様に選ばれる理由は、銅に特化して蓄積したノウハウや技術力ではないと雅裕はいう。
「品質やコスト、納期などは当然必要なことです。しかし、お客様が見ているのはそれ以外の部分にあるんじゃないでしょうか」
たとえば、この会社は今後も長く必要な製品を供給し続けられるか。窓口になる人がどんな風に自社と自社の製品や技術を説明できるか。緊急時の対応力。トラブルが起きたときの対応力。そんなQCDの外にある『人』の部分を見ているのではないかと雅裕は考えている。
「お客様はモノでも会社でもなく『人』です。だからこそ『人』としての対応力が重要なのだと思います」
大切にしている想い
雅裕が大切にしているのは『お互い様の精神』だという。
石垣商店は問屋業からスタートして、お客様の要望に応えてきたことで今の業態になった。
「お客様の要望を叶えようという想いが根本にあって、それがものづくりに生かされてきたと思います」
これは一方的なものでは成り立たない。発注側も受注側もお互いにフォローし合えるような繋がりや信頼関係が築かれることが大切だ。
お互いが助け合い、仕事をしやすい関係を築くことがものづくりにも反映されるのではないか。
それは創業者の宗市から脈々と続く石垣商店の心なのかもしれない。
美容師学校から石垣商店へ
石垣商店に入社する前、雅裕はヘアデザイナーを目指して美容師の専門学校に入った。
しかし、学びはじめたとき命がけでやりたい仕事ではないと感じたという。そして後戻りができない覚悟を持って石垣商店を継ぐ決意をした。
まったく違う道から製造の現場に入ったのだが、美容師の髪を切る場面と現場で加工をする場面は似ているところがあると感じたそうだ。
「手を使って何かを作ることが好きなんです。だから、会社に入って現場で作業をすることに何の抵抗も感じませんでした」
アーティスティックに銅の魅力を発信
手を使い何かを作ることが好きだという雅裕は、フラワーアレンジメントを趣味にしている。
フラワーアレンジメントスクールで作品展が開かれたとき、雅裕は銅の切粉を使うことにした。銅を加工する際に出る削りカスはゴミでしかない。しかし花とともに飾ることでアートに変わったのだ。
また、古い加工機械と花を合わせた作品もつくったことがある。
そこには、銅の美しさや町工場の魅力を知ってもらい広げていきたいという思いが込められている。
「銅の色味は本当にきれいなんです。だからもっと日常にあってもいいのにと思いますね」
何より雅裕自身が楽しみながら作る作品だからこそ銅や工場の魅力を伝えられるのだろう。
この先に目指すのは『競合』ではなく『協働』
「ものづくりの会社同士でもうちょっと交流があってもいいと思います。そして自社の社員が他のものづくりの会社の役に立てたらいいなと思っています」
ものづくりをしている会社はそれぞれに技術やノウハウなど目に見えない財産を持っている。
まったくジャンルの違うものづくりをしていたとしても、そのエッセンスは別の会社にとってもプラスになるかもしれない。
雅裕は会社ごとであたためている『目に見えないもの』が連携することで、新しいものが生まれるのではないかという期待を抱いていた。
雅裕がフラワーアレンジメントと銅を掛け合わせた新しい魅力を見つけたように、ものづくりの会社同士で交流することで想像しなかった化学反応が起こる可能性がある。
これからは『競合』するのではなく、互いに連携して技術を高め合う『協働』こそが、ものづくりの世界には必要なのかもしれない。