10年以上前の案件でも即座に対応。
独自の生産管理システムでの効率化と技術継承の仕組み。
株式会社八王子 冷間鍛造用金型製作
西川 泰
- 都道府県
- 愛知県
- 事業内容
- 冷間鍛造用金型製作
- 会社名
- 株式会社八王子
- 代表者名
- 西川 泰
- 所在地
-
〒454-0844
名古屋市中川区葉池町1丁目9番地
- 電話番号
- 052-398-5535
- ホームページ
Factory Stories
強度の高い冷間鍛造用の金型を製造
株式会社八王子は西川泰の祖父が1968年に創業した。創業以前は鍛造部品を製造しており、その中で培った技術やノウハウを生かして冷間鍛造用の金型の設計・製造に取り組んだ。
金型の中でも冷間鍛造用の金型は特殊だ。熱を加えてやわらかくした金属の加工ではないため、一般的な金型ではすぐに壊れてしまうのだ。
強度の高い冷間鍛造用の金型にするため、素材には超硬合金を使用する。この硬い素材の加工にはダイヤモンド工具や特殊な放電加工機を使用しなければいけない。
そのため、『金型製造』をしている工場であっても、冷間鍛造用の硬い素材の加工ができる工場は少ないという。
そして硬度の高い金型を高い精度で仕上げる技術も八王子の強みのひとつだ。
「創業当時はそれほどではありませんでしたが、時代とともに求められる精度が上がり、それに対応してきました」
自動車の進化とともに部品の形状も複雑に変化してきた。そしてその複雑な形状を実現するために複数の工程が必要になる。
「工程が複雑になるほど型の精度も必要になるので、金型のクリアランスの設定がキモになります」
その上でコストを下げるために、できるだけ工程を少なくする設計も求められるのだ。
「求められる製品を打つためにどの工程でどんな形状にするのかに金型設計・製造会社のノウハウがあるんだと思います」
3名の営業担当者で万全の顧客対応
泰が八王子に入社したのは2000年ごろだ。入社した当初は現場の仕事と営業を掛け持ちで行っていた。
その経験から3名を営業職に置くようにした。
「当社と同規模の工場の中では営業の人数が多い方だと思います」
一般的には経営者が営業を兼ねている会社や納品時に取引先に声を掛けるスタイルが多いのではないだろうか。
「先代の頃は営業が会社の仕組みに組み込まれていませんでした。そこで『営業技術設計』という営業専任者を置くことにしたんです」
その役職名の通り、技術や設計の知識を持った営業専任者だ。泰が入社した当時におこなっていたように、知識や技術を持つ営業マンが提案型の営業をする体制を整えた。
「知識のない営業だと結局伝言ゲームになってしまいます。それだとお客様が感じるストレスが大きいと思うんです」
八王子の営業は、お客様に相談されたらその場で具体的な提案やアドバイス、具体的な製造方法などについて伝えることができるのだ。
「社員全員が工夫をしてお客様が求めるものを提供できるようにならなければいけないと思います。それに、言われたことをやるだけよりも考えて作った方が面白いじゃないですか」
最も強みを発揮するのはリピート案件
新規の金型のオーダーには3つのパターンがある。
ひとつ目は、金型や工程の設計ができており寸法通りに作ってほしいという依頼。
ふたつ目は、製造工程の設計は先方で行い、金型の設計は任せたいという依頼。
みっつ目は、最終的な製品の完成形を見せて、これを製造するための金型と工程の設計をしてほしいという依頼だ。
八王子ではこの3つのどのバターンでも対応可能だ。
だが、最も多いのはリピート案件だという。そしてリピート案件に八王子の強みが発揮される。
自動車の場合、モデルのサイクル寿命は10年ほどだ。そのため10年間は一定量の部品製造がおこなわれる。モデルチェンジをすると新しい部品を製造するのだが、モデルチェンジ以降も10年間はそれまでの部品の供給をしなければいけない 。
「部品を供給するために大事なのが金型です。金型がなければ部品を生産できません」
旧モデルの部品が必要になったとき、八王子ではお客様側が金型の図面を紛失していたとしても当時の図面から加工の詳細までを即座に抽出して同じ金型を作ることができるのだ。
自社開発の生産管理システムの効果
中小規模の工場では、今でもホワイトボードや日報などを利用して手作業で生産管理をおこなっているケースもある。だが八王子では1989年からコンピューターによる生産管理をおこなっているのだ。
「はじめは簡単なファイルソフトを使っていました。先代はみんなに話をして理解してもらうというのが得意ではなかったので、好きだったコンピューターを利用して社内の管理を進めたんだと思います」
そして2000年から自社開発の生産管理システムを稼働させた。これにより図面はもとより加工内容や修正履歴、寸法、生産数などをまとめて管理ができるようになった。
「使いながら要望を基に 改善をして10年ほど前にほぼ完成しました」
また、完成した金型に製造番号をレーザーで刻印して管理している。
「お客様に製造番号を言ってもらえれば、何年に作ったものかもわかります」
さらに生産の進捗管理や売上管理などもおこなうことができる。
現在の工場の稼働率などもすぐにわかるため、営業担当者が受注から納品までの段取りをすばやく検討することが可能だ。
そして数値やグラフで生産状況を把握できるため、売上目標の設定や稼働率の平準化にも活用できている。
「社員が誰でも情報を見られるようにしています。データとしてきちんとわかるようにしてあるので、たとえば営業がとにかく安く受注して利益が出ないということがなくなりました」
きちんと利益が出る企業体質に変化することで、利益を設備投資や社員の育成に活用することができるのだ。
本物の技術を継承する責任
日本のモノづくりは中小・零細の町工場が支えてきた。
「海外の安い金型が入ってくると日本では仕事がなくなるよと言われていたことがありました。でも実際には、日本でモノづくりができるところが少なくなくなってきて海外に頼まざるを得ない状況になっています」
だからこそ泰は技術やノウハウを伝承し、日本のモノづくりを維持していく責任を感じている。
技術を伝えていくために八王子では業務時間の5%を勉強の時間に使うようにしている。1か月で160時間の勤務ならば8時間は勉強に当てる計算だ。
また、技術検定制度や報酬制度を設けて、若い人たちが目標を持って技術を習得できるようにしている。
「モノづくりの技術が1から10まであるとするなら、今は自動機を利用することでいきなり5の加工を覚えるイメージです。でも汎用機で基礎を身に付けなければ本当の意味で技術を理解できません」
製造の現場ではコストを抑え、生産効率を高めるために自動化や無人化が進んでいる。
しかしそれではモノづくりの技術力を高めることはできない。また応用力や対応力を伸ばすことはできない。
八王子ではお客様が求めるモノづくりを提供するだけでなく、基礎を身に付けた技術者を育て、本物の技術を継承することで社会に貢献していこうとしている。