鉄を自在に操る鋳物の錬金術師。
昔ながらの手業とデジタルの融合であらゆる形状を自在に。

株式会社浅井鋳造所 鋳鉄鋳物・特殊鋼鋳物・アルミ合金鋳物の鋳造

浅井敬司

都道府県
愛知県
事業内容
鋳鉄鋳物・特殊鋼鋳物・アルミ合金鋳物の鋳造
会社名
株式会社浅井鋳造所
代表者名
浅井敬司
所在地

〒491-0814

一宮市千秋町小山東仲田12字

電話番号
0586-76-1060
ホームページ

https://asaichuzo.com/

Factory Stories

鋳物の錬金術師

人気を博した漫画『鋼の錬金術師(著:荒川弘)』では、様々な材料を知識と技術で配合して錬金し、目的の姿に変えている。「これは鋳物と同じだ」と浅井鋳造所の三代目・浅井敬司は語った。
鋳物は自由自在に形をつくることができます。金属積層造形メーカーの社長さんに『金属積層は意外とできない形状が多い。鋳物は自由度が高い』と言われたことがあります」
鋳物は溶かした鉄を型に流し込んで形状をつくる。液体で造形するため自由度が高いのだ。

 

「理屈をわかっていて、鉄を流し込む隙間を作れればどんな形でも生み出せます。自由度が高すぎるからこそ人の想像力への依存度は高いんですよ
そんな自由度があるからこそ、浅井鋳造所では錬金術師のように多様な鋳物を生み出している。
産業機械や製麺機、印刷機、饅頭を作る機械やタイ焼き機、船舶のコンプレッサー、木工機械、電車、遊具の部品など幅広い業界から依頼があるのだ。
「リーマンショックの前までは2社のお客様の売上が全体の8割を占めていたんです。これではまずいと、僕の双子の弟が様々なお客様に営業をして取引先を増やしました」

三兄弟が得意を生かした最強チーム

浅井鋳造所は1946年に敬司の祖父が個人事業として創業した。その後父が後を継ぎ、敬司が三代目となった。
敬司は大学の工学部で鋳物について学び、卒業後すぐに入社した。
「僕は理系だったので工学部に、双子の弟は文系だったので経済学部に進もうと高校のときに決めていました。当時から会社を継ぐ前提で考えていましたね。2歳年下の弟は機械科に進んだんです」

 

三兄弟が別々の分野に進んで得意を伸ばしてきたのだ。
「子どものころ父の仕事をいつも見ていました。でも兄弟で興味を持つところが違ったんですよ。僕は鉄が溶けるのが不思議でそれを知りたいと思いました。双子の弟は会社を動かすことに興味があって、下の弟は鋳造模型に興味を持ったんです」
兄弟がそれぞれの分野を身に付け、領域を守りながら浅井鋳造所を動かしている。鋳造の最強チームが生まれたのだ。

自動化しないからこそ持てた強み

浅井鋳造所は自動化の道を選ばず、昔ながらの製法を守っている。
これが浅井鋳造所の強みになっているのだ。
「欲しいときに欲しいだけしか作らないので、これはお客様にとってメリットだと思います」
少量多品種の生産に柔軟に対応できるのは、木型の設計や型づくりもすべて自社でやっているからだ。

 

不良品が出た場合でも自社ですぐに木型から修正することができる。
もちろん昔ながらのやり方だけでなく最新のデジタル技術も取り入れている。その中でも特徴的なのは砂をプリントする3Dプリンターを導入していることだ。
「砂の3Dプリンターの型は木型よりも複雑な形状が作れるんです。うちでは木型と3Dプリンターを合わせて精度の高い製品をつくっています

浅井鋳造所が選ばれる理由

複雑な形状の鋳物の製造にフレキシブルに対応できることは浅井鋳造所が選ばれる理由のひとつだ。そしてさらにもうひとつ大きな理由がある。
お客様から鋳物の材料がすごく良いと言われます。削っている人は材質の違いがよくわかるらしいんですよ」
鋳物の主な材料は銑鉄とスクラップだ。浅井鋳造所では銑鉄の配合比率が高いのだという。

 

浅井鋳造所では祖父の代からこの比率を守ってきた。そのためこの品質を求めるお客様が鋳造を依頼する。
「人はどうしてもミスをすることがあります。しかし、根本的な材料は自分たちで選べて保証ができる部分です。だからこそ材料はブレずに守り続けています

オリジナル商品『ニクイタ』

浅井鋳造所ではオリジナル商品の製造販売もしている。それがメディアでも注目されている『ニクイタ』だ。
敬司は過去に第一回のものづくり補助金を利用して薪ストーブの商品開発に挑んだことがある。
「いきなりB2Cは難しいので、誰もが買うものじゃなくていい。売れなくていい。当社の技術力を見せられる商品にしようと思っていました」
社員たちは「売れなくてもいい」という敬司の話が理解できなかったという。

 

「つくった商品は新聞でも取り上げられました。それを見て問い合わせがあり取引を開始したお客様があります。僕の作戦は成功したんですが、仕事の進め方は失敗でしたね」
その後、社員の一人がソロキャンプをはじめたことがきっかけにさらなる商品開発をすることになった。
「20キロくらいの不良品で肉を焼きたいと言ったんです。それならばちゃんと商品にしようと提案しました。過去の失敗を受けて、今度はプロジェクトを立ち上げて社員みんなでデザインやネーミングを考えて作り上げました
こうしてキャンプで活躍する『ニクイタ』が誕生したのだ。

鋳物の錬金術師が作り出した商品

「最初に作ったものはソロキャンプっぽくないと思ったので、僕が別で作ったものを社員に見せました」
それは鋳物を食パンのように切って板状にしたものだ。実際に肉を焼いてみたところ、焦げ付きにくいと好評だった。
「伝熱が良いことはわかっていたんですが、想像以上に良い結果になったんです」
鋳物の表面は冷却するとき「チル」と呼ばれる硬い層ができる。そのため落としても割れにくい丈夫な製品になるのだ。
ところが敬司はあえてチルのない部分を利用した。これにより熱伝導率が高く、油ののりが良いため焦げ付きにくい『ニクイタ』が誕生したのである。

 

「FCD材(球状黒鉛鋳鉄)は炭素がバラバラで球状になっていますが、FC材(扇状黒鉛鋳鉄)は炭素が筋状で、立体で見るとバラの花びらのような形状でつながっているんです」
こうした鋳物の特性を知り尽くしていたからこそ生まれた商品なのだ。
結果、『ニクイタ』は鋳物の特性を最大限引き出した鋳造製品として日本鋳造工学会の2023年度キャスティングオブザイヤーに選ばれた。
その道のプロにも、あえて今の時代から逆行するFC材を使うことが肉を焼くことに対し最大限の性能を発揮するという発想とそれを形にする技術が認められた製品なのだ。

鋳造を知ってもらいこれから先も残していきたい

「鋳造業は人気がないんですよね。みなさん知らなくて『鋳造』がそもそも読めない人も多いんじゃないかな?」
敬司は鋳造業の状況についてこんな風に憂いた。
だからこそ、もっと多くの人に知ってもらい、鋳造技術を残していきたいと考えている。

 

「20数年前にホームページを作ったとき、鋳物とはこんなものですと紹介するページを作ったんです。実はこのページがうちのホームページで一番アクセス数があるんですよ」
鋳物の技術を残すため多くの人に知ってもらうことからはじめたのだ。
そして魅力のある業界にしていくためには、業界全体が変わる必要もある。

 

「鋳物は重量売りが多いんです。それだと部品を軽量化するために苦労してつくるほど安くなってしまいます。当社は重量売りをしていませんが、業界全体が技術や工程に適正な対価を得られるようになれば、もっと技術力が上がって働き甲斐のある仕事になっていくと思います」
そんな敬司の原風景は、子どもの頃に見て魅了された、鉄が溶けて形を変えていく様だ。
敬司と同じように鋳物に魅了された『鋳物の錬金術師』たちが多く誕生し、社会の中で活躍していくことを期待したい。